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そして死は始まり  あとがき やっと出会えた本物の家 2008.4

死を考えずに、充実した生はありません。現代人の悲劇は、死を避けていることです。考えない、思わない、言葉にしない、触れない……と逃げまくっています。 

人の死は悲しいもの、としかとっていないようです。死後の世界があるかないかは、現代科学では解明できないでしょう。科学信仰の時代ですから、科学的でないことは存在しないことに、なってしまいます。科学で証明できないものは、見ない、聞かない、言わないと、逆に非科学的になってしまう、皮肉な話です。 

私たちの人生は誕生で始まり、死で終わります。その間の数10年は実感できますから、始まりがあるものは終わりがあると、何の疑問も感じないように、こころは設定されています。 

しかし現実的には、終わりがあるから始まりがあると、とらえたほうが理解しやすいのではと思っています。 

卵子と精子がそれぞれ単独の生を終えて合体することで、新しい生が始まります。母体の中の安全な生長期間を終えて、この現実世界に、赤ん坊はでてきます。 

幼児期を終えて、成長期に入ります。青春期を終えて、成人期に入ります。中年期を終えて、老年期に入ります。そして、すべての生を終えて、死に入ります。 

そして、死を入口として、記憶からはずされた世界に入ります。やがて、見えざる世界の滞在を終え、再び、生という世界に入ります。

これは、少し前までの日本人が持っていた死生観です。諸行無常の生活観、輪廻転生の仏教観です。昔の日本人であれば、逆に何の疑問も感じないで、当然のように信じていたことです。 

このような考えは、戦後は否定され、無知蒙昧、迷信と一口で片付けられてしまう時代になってしまいました。科学的でない、と。

その結果なのでしょうか、目先のみ、現世のみの豊かさや発展しか考えられない頭脳構造になってしまった、そういう20世紀後半でした。

 そして死は始まり

現代社会では、終わることは悪いこと恐ろしいことなのです。

なるべく終わることは避けようと、学生は、なかなか社会に出たがらないモラトリアム状態を好み、会社は、環境や健康に悪いとわかっている物でも製造販売を続け、個人も物質的豊かさのむなしさに気づきながらも、物への執着から脱皮できません。 

死と再生を、強く意識することは、現代文明の物質中心主義からの脱皮を促進します。 

よりよく生きること、それは、よりよく死ぬこと、そして、よりよく死ぬことができれば、よりよい生が次にあると、考えられれば、現実の生き方は、がらりと変わるのではないでししょう。 

現在、ほとんどの会社の仕事は、環境や健康という観点からみると、害毒を垂れ流している言えます。会社での人間関係は、お互いの人間成長につながらず、人間性の否定に終始しているようです。 

家族の中をのぞいてみても、同様のことが言えそうです。

こんなもんだと、あきらめてしまった夫婦関係、うわべだけ仲のいい友達親子、傷つけることを嫌い表面的関係に終始する家族、自分のこころの成長も家族の成長も考えず時間と空間だけを共用している人間関係……とさびしい情景が次から次へと浮かんできます。

捨てましょう。一度、思い切って捨てましょう。

 死は始まり  

終わらなければ、新しいことは始まらないのですから。

お金と物の時代から、こころの時代への転換が急がれている時代です。遅れれば、それこそ今回の人類もここで終わりでしょう。それもまた、新しい時代への壮大なプロローグとして歓迎できるのでしょうが、やはり、終わりはきちっとしたいものです。 

人類がこのまま、だらしなくずるずると幕を閉じることは望ましいことではありません。終わりが美しいことが、よりよい始まりにつながります。 

仕事も家族も、納得がいかなければ、一旦終わらせましょう。終われば始まります。これは、何も物理的な意味ばかりで言っているのではありません。実際に、仕事を辞めたり、離婚したりすることもいいでしょうし、あるいはその中にとどまり、今までのこころのあり方、考え方を捨て、生まれ変わり、本質的改革を進めていくこともあるでしょう。

 

死は始まり、恐れることはありません。ましてや、この現実の社会の中では、意識して何回でも終わり、始めることが可能なのですから。

 

私たちのパッシブな家づくりは、まさしく終わること、捨てることから始まりました。 

本文中では、固有名詞を避けたいと思い、パッシブな家と表現してきましたが、これはPAC住宅のことです。PACはパッシブエアサイクルの略です。 

1977年に普及活動がスタートしました。当時は、エアサイクル住宅の名称でした。これは空気循環、エアサーキュレーションから、造語されました。二年後、技術の改良進歩もあって、パッシブエアサイクル住宅、略してPAC住宅の誕生です。 

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2008年4月 田中慶明

そして死は始まり